《MUMEI》
永井伊久子ノ気持チ
――聞いてしまった。

あたしはこの耳でしっかりと聞いてしまった。

『お昼になったら、オレの彼女も来るんで一緒に周りませんか?』

  “彼女”

やっぱり…あんなにかっこいいのに恋人のひとりやふたりいない方がおかしいのよね。

どんな人なんだろうか?

やっぱりきれいな人なんだろうな。

あたしなんか比べものにならないくらい……。

「伊久子?どうかしたの?元気ないね」

「えっそう!?元気いっぱいだよ、あたし!」

「疲れたんじゃない?少し休んできたら?」

結局、あたしは屋上に来てた。

汗か涙かわからないものが顔中を濡らしていたから。

心が重くて素直に笑えない。

頭の中がマヒしてうまく整理できない。

あたしに可能性なんてない――…。

わかったのはそれだけ。

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