《MUMEI》
―鍵・・伊藤視点
ジャラ……
「―――なに?」
俺が突然出した鍵の束。裕斗は不思議そうに身をのりだしてきた。
「――これな、俺の過去」
「―――――――」
「この一番小さい鍵は小学生の頃使ってた引き出しの鍵、良くエロ本入れてたっけなー」
「―ふーん」
これが中学時代部活で使っていたロッカーの鍵、高校時代寮生活してた頃の部屋の鍵って次々に紹介していく。
当然かえさなかったんかよって笑いながら言われたけど、これは自分で増やした合鍵だから見逃せって言い返してやった。
「――これが上京して初めて住んだアパートの鍵、実に5年も住んだな」
「噂の風呂無し四畳半か、俳優。伊藤秀幸の原点だね」
「――ハハッ、――で、この鍵が次にワンルームマンションに移った時の、――で、今のはゆうちゃん持ってるからそれはこの中についてない」
「―――?この新しい鍵は?」
――一本だけ傷一つなく光るディンプルキーを裕斗は不思議そうに見ている。
「――マンション買ったんだ」
「え〜!い、いつの間に!俺聞いてねーよ!」
当然びっくりした表情で俺を見る裕斗。
俺はちょっと擽ったさを感じながら裕斗の髪を撫で
「まだマンションの中空っぽだから」
俺は裕斗の両手を鍵ごと握り込んだ。
「―――裕斗が選んだモノでいっぱいにしてくれないか?
一生モノになる様な…飽きのこねーものだけで…――――――――――――
そんで…この鍵は…
お前に貰って欲しい…―――――――
ずっと一生、俺と一緒にいてください」
「…〜〜〜」
瞬間ガバッと俺に抱きついてきた愛しくて幼い、可愛い恋人。
わんわん声出して泣いて、俺は笑いながら背中をポンポンした。
「ひでゆきぃ!ひでゆきぃ!」
「もう、どうなんだよ?お返事は?」
聞かなくたって裕斗のこの有り様で一目瞭然だったりする訳ではあるけど、
――やっぱ聞きてーじゃん!
――だってこっからが俺達の新たな人生のスタートでもある訳だし。
―――俺が必死に準備してきたプロポーズの台詞の返事……
―――俺達にとって一生の宝物になるこの台詞を―――
「俺、秀幸のオムツ取り替えたげるからね!
立派な葬式も挙げてあげるから!」
――涙目キラキラで力強く…そう言い放たれた
「…!!!こ!コラ〜ッ!!!!
は、話が飛躍しすぎだ〜〜〜!
一生に一度の俺達の名場面の裕斗の台詞はそんなんなんか〜!!!ち、違う!俺の台本と違い過ぎる〜〜っっ!」
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