《MUMEI》 ◇◆◇ 申の刻には、茜に染まった空に点のように烏が飛んで行く。 咲弥はそれを見上げながら、残しておいた干し桃の入った包みを大事そうに抱えていた。 時折冷たい風が吹いたが、それはあまり気にはならなかった。 ひんやりと心地良い程度のものであったから。 「──咲弥、寒くないか?」 「うん、大丈夫。黒蝶は?」 咲弥は黒蝶の左腕を気にしていた。 その黒い衣には、相変わらず左の袖がない。 現れた草薙に尋ねると、黒蝶はこの方が勝手がいいのだと言う。 咲弥は不思議に思ったが、それ以上は追求しなかった。 ◇◆◇ 前へ |次へ |
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