《MUMEI》

「咲子の乙女趣味満載だけど、配置は変わってないな」


「当たり前でしょ。父さんの大事な店なんだから」


『クローバー』が今のようになったのは、咲子さんが店をリフォームしたからだった。


父と華江さんは、カウンターにある写真に手を合わせた。


「この人たちだぁれ?」


二人の真似をして、手を合わせながら友君が質問した。


「友和の、おじいちゃんとおばあちゃんだよ」


父は笑顔で答えた。


この店が『クローバー』になる前は、ここは祖父母が営む洋食屋『よつば』だった。


二人は私が生まれる前に亡くなっていた。


二人は駆け落ち夫婦で、墓は無い。


というか、『いらないから、その金で店を咲子の好きなようにリフォームしなさい』と言うのが、二人の遺言だった。


だから、祖父母の墓参りのかわりに、父は『クローバー』を訪れていた。


私がストーカーに襲われる前までは、毎年。


『別に父さん一人で行ってもいいのに』


『…蝶子ちゃんが行きたくなったら行くよ』


父は寂しそうに笑った。


(今年は来れて良かったな)

まだ、心の傷は癒えていないけれど、私はやっぱり、この町が好きだと改めて思っていた

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫