《MUMEI》

「しなさい!」


「うっ…痛いっ! 夢なのに、痛い」


俊彦がうずくまる。


…私が俊彦の足を思い切り踏み付けたから。


ちなみに、事務所は土足厳禁で、俊彦は裸足だった。

本当は、気持ち的には急所を蹴り上げても良かったが、疲れきっている俊彦に対して、一応遠慮した。


(まったく、もう…)


私は素早く着衣の乱れを直した。


「あれ? まだ、消えない」

「…本物だから」


呆然とした俊彦は、まじまじと私を見つめた。


「帰ってきたんだね! 蝶子がいなくて寂しかったよ」


「だから、抱きつかないでよ!…て、俊彦?」


私が俊彦を押し退けると、俊彦はヨロヨロと後ろに下がり、座り込んだ。


「ちょっと、大丈夫?」


グ〜!!


返事をしたのは俊彦のお腹だった。


俊彦はそのままぐったりしている。


(もしかして、お昼食べて無いのかな?)


私は辺りを見渡したが、昼食らしきものは見当たら無かった。


かわりに


「ま、雅彦?!」


事務所から自宅に上がる階段の途中で、力尽きて倒れている雅彦を見つけた。


「お母さ〜ん、ご飯…」

雅彦は呪文のようにその言葉を繰り返していた。

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