《MUMEI》
新人
翌朝。


皆で朝食を食べていると、衛さんが思い出したように話し始めた。


「そういえば、喜多村さんの所、新人さん入るらしいよ」


「あら、見付かるの早かったわね」


「そうなんですか?」


私と咲子さんの言葉に、衛さんは頷いた。


『ベーカリー 喜多村』の店長の香澄さんは、結婚四年目で、今月妊娠三ヶ月である事が判明した。


その為、『従業員募集』の貼り紙を八月にお盆前から貼り出していた。


「意外と、『シューズクラブ』の誰かのファンだったりして」


「…蝶子ちゃんと同い年って言ってたしな」


(だったら、嫌だな…)


『シューズクラブ』に続き、サンドイッチ用のパンを買いに行く『ベーカリー喜多村』まで、行きづらくなるのは避けたかった。


「蝶子ちゃんと同い年かぁ…
仲良くなれるといいわね」

「そうですね…」


咲子さんの満面の笑みに、私は嫌な予感がした。


双子と衛さんが家を出た後。


「じゃあ、今日からまた頑張りましょうね」


「はい」


朝食の片付けと洗濯を終えた私と咲子さんは、『クローバー』の厨房に向かった。


そこですぐに、私の嫌な予感は的中した。


「行ってきます」

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