《MUMEI》

◇◆◇

 朝の冷えが嘘のように暖かくなり、咲弥は灰ばかりが積もった火桶の側から離れると、日向へ出た。

 霜月とは思えない日和だ。

 さっきまでは雪が降っていたというのに。

「───────」

 ふと内裏のある方角へ、咲弥は目を向ける。

 草薙はあれからまだ戻る気配がない。

 小さく咲いた花の匂いが、香を焚いたように立ち込めている。

 それを、吹き抜けた風が運んで行った。

◇◆◇

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