《MUMEI》

◇◆◇

 暫く庭に佇んでいた咲弥が邸の中に戻ると、何やら花の香りが漂ってくる。

 咲弥が帳の向こうを覗くと、黒蝶が香を焚いていた。

「いい香り──」

「おお、戻ってたのか」

「うん」

 咲弥は穏やかな笑顔を見せ、香炉の側に近付く。

「これ──白檀?」

「ああ」

 黒蝶は白く立ち上ぼる煙を見つめて呟いた。

◇◆◇

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