《MUMEI》

◇◆◇

 薫き染められた香の匂い。

「‥‥‥‥‥‥‥」

 二人の会話を聞きながら、草薙は時折軽く噎せていた。

 やはり香りがきつい。

 だが一方では、内裏に比べれば幾らかましだとも思う。

「大丈夫?」

「‥‥‥‥ああ」

 返事をしつつ、僅かに後ろへ下がる。

「‥‥‥‥‥‥‥」

「草薙?」

「‥‥‥‥いや、何も」

「あ‥ごめんなさい、忙しいのに‥」

 咲弥が頭を垂れると、草薙は困惑の色を浮かべた。

 謝られる理由など何もない。

 むしろ───。

「草薙‥‥?」

「‥‥‥‥‥‥‥」

 何と答えて良いのかが分からず、草薙は押し黙ってしまった。

◇◆◇

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