《MUMEI》

その後。


和馬と孝太から私が孝太の実家に行った経緯の説明があり、その場は落ち着いた。


帰り際、琴子が落ち込んでいたので、私は『大丈夫』と言って、お土産のクッキーを手渡した。


そして…


「ちょっといいかな?」


「はい」


一人最後まで残った麗子さんに私は声をかけられた。

片付けはほとんど終わっていたから、咲子さんは気を遣って先に二階に上がっていった。


「…コーヒー、飲みます?」


麗子さんが頷いたのを確認して、私は二人分のコーヒーを入れた。


「どうぞ」


「ありがとう」


そして、私は麗子さんの隣に


カウンター席に並んで座った。


私が座ると同時に麗子さんが小さく笑った。


「あの?」


「あぁ、ごめんね。この状況、『あの時』と同じだから、つい…」


(あの時?)


私は首を傾げた。


麗子さんは、コーヒーを一口飲み、カップを置いた。

「…私が孝太に振られた時よ」


麗子さんは消えそうな声で言った。


私が驚いて、何も言えないでいると


「蝶子ちゃんが来る前の事よ」


麗子さんは一瞬笑顔になり、それから、うつ向きながら語り始めた。

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