《MUMEI》
答え 〈私〉
「…あの!!」


駅のベンチに座る、『吉田ゆりちゃん』を見つけ、声を掛けた。


彼女は、私の―…『椎名くん』の声に、一瞬肩を強張らせた。



「…あ…」


「えーと…お、おはよう」


「おっ、おはようございます!!」



吉田ゆりちゃんは、ベンチから立ち上がり、ぺこりとお辞儀をした。



「…吉田、さん」



小さな肩が、ビクッと震える。



「―…あの、返事―…なんだけど」



『椎名くん』の声に、彼女は拳を固く握り締めた。



「……今は、誰とも付き合う気ないから―…ごめん、ね」



吉田ゆりちゃんが俯いていた顔を上げる。

その大きな瞳には、涙が溢れていた。



「……わかって、たんです」



震える声。ぽろぽろと、涙の粒が頬に滑り落ちる。



「…椎名君…彼女いるんですよ、ね…??」


「……え、」


「…さっき、見ちゃったんです…
―…すごく、か、可愛い人…で―…っ」



最後は言葉になっていなかった。


私の姿をした椎名くんのこと、彼女だと思ってるんだ…



「…彼女、は、いないよ。」




私が弁明すると、



「…でも、あんなに、仲良さ、そうに…」



と、涙を拭きながら答える。



「…や、あの…あれは、友達で―…」


「…いい、ですよ、もう。
…下手な言い訳しなくたって、…堂々としてて、ください。
―…そのほうが、椎名君らしい、です」



彼女は、そう言って無理に笑った。


その笑顔に、胸が締め付けられる。



「…ありがとうございました!!…空手、これからも頑張ってくださいね!」


「…うん…」



吉田ゆりちゃんは、じゃ、と笑って背を向ける。



歩き出した背中に、



「―…ありがとう!!」



少し大きな声で言った。


…その小さな背中にちゃんと、届くように。

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