《MUMEI》

「そのケーキさ、前TV出てたやつ。担当の人がクリスマスだからって買ってくれちゃった。どーせなおひろが寂しく一人でいるだろうと思って、」

一緒に食おうと甘党な茶髪男は、ローテーブルに鎮座する箱を示し、煙草をくわえたまま暢気に笑う。
何で今まで仕事のこと言わないんだとか、色々と聞きたいことがあったが、

「よかった・・・・」
「何ソレ」

何より呟いた言葉が全てだった。


ようやく温まってきた部屋に、男二人。色気も何もなく、丸くてホイップたっぷりのケーキをフォークで切り崩しながら食べていく。
知り合いの話、仕事の話、女の話。下らない会話すら嬉しくて、俺は目の前に今いる存在を確かめるように喋り続けた。

こんな幸福がいつまでも続けばいい
恋人なんて贅沢は言わないから、どうかこのままで


信じてもない神様だか何だかに願った聖夜の朝。
カウントダウンがとっくに始まっていたことにも俺は気づいていたが、気づかないふりをした。



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