《MUMEI》
ノート。
少し落ち着こう…




僕は家に帰り、濡れた体を拭きながら考えた。




まだ震えている手先にイラつきながらも、コーヒーを一杯作ってベッドに腰掛けた。




心なしか…コーヒーの香りで少し気分が落ち着いてきた気がした。




だけど…




そのコーヒーカップの中に映るのは、びしょ濡れのまま、必死に落ち着こうとしている僕の顔だった…。





そもそも何故、僕はこんなにも焦っているのか…。





そう…




それは…




僕の“日記”が無くなってしまったからだ。




つい一時間前に…。




僕は思った。




あの“日記”が、もしも誰かに見られてしまったら…





僕はおしまいだ…。






だって…





あの日記には……





出来心から書いてしまった僕の未来の一週間を書いてしまったからだ…。





しかも…





僕の本能と醜さ…




嫉妬心といやらしさ…




すべてを趣くままに書き綴ってしまった…。




9月の末…




“給料日まであと何日だ…?”




などと考えながら焼酎を飲んでいると…




ふと、テーブルの上に置いてあったノートが目に留まった…。




“なんだこれ…?”




僕には見に覚えの無いノートだった…。




少し汚れたノートを手に取ると…また見覚えの無い、万年筆が見えた。




不思議に思いながらも、この二つを手にした瞬間…





僕の中に今まで理性で抑えていた…妄想が怖いくらいに溢れてきた…。




とっさにノートを開き…




万年筆のフタを外し…




何故か…あと二週間後の日付である





【2008年10月1日】




という、書き出しで…





僕は野望とも思える【未来の日記】を書いていた。





最後のページには…





【2008年10月7日】




の出来事を書き…




満足気に焼酎を飲み干した。




僕は泥酔状態の為、かなりおかしくなっていたのだろう…。




このノートを誰かに見せたくなり外へ飛び出した…。



一時間ほど町をぶらつき、酔いも冷めかけたころ…ふと、我に返った…。




“僕には仲の良い友人も気の合う仲間もいねぇじゃねぇか…。”




“何してんだ……。”




近くの公園で水を飲み、顔を洗った時に気が付いた。





“僕!手ぶらじゃん!!”




そう…




持っていたはずのノートは無くなっていた…。




それからは必死だった。




雨が振ってきてもお構いなし…




ただただ…僕が歩いたであろう道を何往復もしてノートを探し回った…。




だが、見つかることはなかったんだ…。




諦めきれずにそれから二週間探し続けた…。




汚い路地裏…




生ゴミだらけのゴミ箱の中…




ずっと…




結局ノートは見つからないまま…





【2008年10月1日】を迎えた。





僕が【未来の日記】を書き始めた日だ…。

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