《MUMEI》

「昔はよくキスした。
お前は赤ん坊で唇はだいたい唾液で濡れてて、食事と間違えてディープなとこまでやってくれたな。
……今しか仕返し出来ないんじゃないだろうか。」

これはキスじゃない。
こんなの違う。
認めない。

「……ゲホッ、」

咳で、頭で何度も何度も振り切ろうとした。

兄貴とのいい思い出しか俺には出てこない。

息が出来ても止まりそうだ。そういうキスだった。




「俺が教えたことを忠実に再現する。

キスは目を閉じろって教えたのもオ・レ。
お前には白が似合うって言ったのもオ・レ。

幹祐は俺を捨てられない。でも、俺は捨てられる。理由は分かるか?」

分からない。


「簡単に奪えるから」

兄貴の声で真っ暗になる。

兄貴の大きな手が俺の視界を遮ることは造作なかった。

「幹祐を裏切るよ。」

この男が怖い。
その唇がもう一度被されば無抵抗だろう、死ねと言われれば死んでしまうかもしれない。

「それでも俺に従い続けるかはお前次第だ。」

そう言いながら嗤う姿が、怖かった。
話すたびに見え隠れする彼の舌が、俺の中で絖る。


これ以上は入られない。

俺では彼に入られない。


明確な線引きを見た





瞬間、駆け出した足が止まらなくなった。

俺も周りの女達と何等変わらなかったのだ。
彼の操り人形の一部、そんなものに過ぎなかった。

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