《MUMEI》
桃 (もも)
◇◆◇

 辰の刻。

「──ねぇ、ちょっといい?」

「ん?」

「どうされたのだ、姫君」

「来てみて」

 咲弥は二人を庭へと連れ出す。

「‥‥‥あ」

 示された幹の枝には、桃色の可愛らしい花が咲いている。

「桜‥か?」

「ううん、桃の花」

「ああ、そうか。そういやそうだよなぁ」

 桜はまだ蕾のままだ。

 だがそれももうじき開くだろう。

 ふわり、と風がそよぎ、小さな花びらを震わせる。

◇◆◇

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