《MUMEI》

本当にここからいなくなるんだな

モデルとか東京とか芸能人とか、あまりにかけ離れた単語だった。はじめは何のリアリティも無かったのに、カレンダーに点けられた引越し予定日の赤丸が、クロネコの薄紙を張られたダンボール箱が、いやでもそのときが近いことを思い知らせる。

別に永遠の別れってわけじゃない。メールだの電話だの、いくらでも連絡はつけられる。でも、胸に迫る圧倒的な寂寥感。
ほとんどロクに行ってなかった大学も辞めて、親への説得も完了したこのモデルの卵を、引き止める権利なんて誰にもありはしない。店長だって、他の店員だって、知り合いが華々しい世界に飛び込んでいくことには、素直に喜んだんだ。あたり前の反応だ。

でも俺は、素直に祝うこともできなかった。寂しい、陳腐な想いが冷静な部分の反対側に堆積していく。

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