《MUMEI》

銀二はけらけらと笑いながら、煙草を手にしていた黄色の灰皿に押し付けて、部屋に戻っていった。
その細い背中を眺めながら、俺は2本目の煙草に火をつける。

今ここで、“何か”を言ってしまえば変わるんだろうかと思案する。
変わるのはコイツの運命なのか、はたまた俺たちの関係なのか、そのどちらも俺の心の呵責よりは随分と重いものだとわかっているから、何も言えない。
ただ、ひょっとしたら、とありもしない確率が俺の耳元で甘ったるい幻想を囁く。

今ここで行くなと言ったら。
今ここで好きだと言ったら。
今ここで、その細い背中に手を伸ばすことができたら。

その行動の対価が一体どこに現れるのか、俺には怖すぎて確かめられない。ハイリスクローリターンの敗者は常に自分自身だ。

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