《MUMEI》

◇◆◇

「ん、何読んでるんだ?」

「前に書き写した和歌。黒蝶も読む?」

「いや、あたしはいいよ」

 そう言って黒蝶は苦笑した。

 彼女にとって書物は催眠術に等しいのだ。

「そういえば──咲弥は和歌を詠んだりしないのか?」

 黒蝶が急に話題を変えたので咲弥は些か戸惑ったが、徐に頷く。

「うん、あんまり」

「───黒蝶」

「ん、どうしたんだ草薙」

「‥‥あまり姫君を煩わせるな」

「え‥‥あ、悪い‥」

 咲弥に向き直り深々と頭を垂れる黒蝶。

 咲弥は苦笑を堪えつつ、気にしないで、と囁いた。

◇◆◇

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