《MUMEI》

一瞬、受話器の向こうで、しゃくり上げるような声が聞こえた気がした――…。



「なんだい?」
*「私ね…」


「…………。」



互いの声のタイミングが重なり、再び会話が途切れる…。


「なんだい?…話してごらん…」


*「―――磯野くん………

……もし…私が主人と別れたら――…

……私を――…選んでくれる?」


「!………。」



あまりにも唐突過ぎて絶句してしまった。



―――でも…



後になって思えば、この時すぐにでも『一緒になろう』と言ってあげるべきだった――…。

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