《MUMEI》 ブレスレットその日は秋晴れだったにも関わらず、私はアップルパイを持って『シューズクラブ』を訪れた。 「…変わった格好だな」 「悪い?」 私が睨むと、孝太は首を横に振った。 今日の私は いつものトレーナーに太めのジーンズではなくて ピンクのチェックのブラウスに、スリムジーンズだった。 いつもは無造作に耳にかけているだけの前髪も、六・四に分けて二本のピンでとめていた。 本当は、そろそろ切りたかったが、何となく『岸美容室』に、…麗子さんの所に行きづらくて、私の髪の長さは中途半端になっていた。 「悪くはない。それ…」 「あぁ、これ?」 孝太の視線に気付いた私は左手首を見た。 そこには、銀色の細いチェーンのブレスレットが光っていた。 私はアクセサリーを普段着けていないから、それで孝太はこんなに驚いているのだろうと思った。 私の持っているアクセサリーは、和馬からもらったネックレスと、父からもらったペンダントと、俊彦が買ってくれたおもちゃの指輪を除くと このブレスレットだけだった。 「お気に入りなの」 私が笑うと孝太も何故か嬉しそうに笑った。 前へ |次へ |
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