《MUMEI》

「ところで、近いうちに時間作れる?」


「急にどうした?」


「…話があるの」


私は、早く孝太に付き合えないと返事をしたかった。

「すぐには無理だ」


「どうして?」


孝太は事務所の壁に貼られたポスターを軽く叩いた。

(あ、そうか)


そこには


『商店街秋の大運動会』と書いてあった。


同じ物が、『クローバー』にも貼られていた。


このイベントは、最近出来たものらしく、私は詳しくは知らなかった。


何故か参加者は『商店街の男性陣限定』だったし。


「じゃあ、終わった後は?」


「…考えとく」


そう言って、孝太は店内に行こうとして、ふと立ち止まり、もう一度私を見た。

「そのブレスレットは、どうしたんだ?」


「何? 急に」


「いいから、答えろ」


(もしかして、同じのほしいのかな?)


ブレスレットは孝太が好きそうなシンプルなデザインだった。


(だとしたら、困ったな)


これは、『ある人』からの贈り物だった。


「…答えろ」


「これ…もらい物だから、どこで買ったかは、知らない」


「そうじゃない」


?


私には孝太の言葉の意味がわからなかった。

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