《MUMEI》
雅彦の嘘
(さてと…)


私は、『シューズクラブ』の赤い扉の前で、何度も深呼吸をしていた。


(まったく、俊彦は…)


昨日、そろそろ仕事用のスニーカーを買い換えたいと、予約の電話をしたのだが

俊彦は、『じゃあ、明日ね。雅彦に言っとくから』と勝手に予定を決めた上に、『お客様なんだから、正面から入ってね』と言ってきたのだった。


だから、私は今日、少し服装に気を使ってきた。


あの浴衣姿を見られているのだからと、今日は開き直って、化粧もちゃんとしていた。


何だか俊彦の思うツボのような気がしていたが、私は『足出して無いからいいよね』と自分に言い訳をしながら、扉を開けた。


「こんにちは…」


「いらっしゃいませ!ようこそ『シューズクラブ』へ!」×4


気合いの入った挨拶の後、すぐに雅彦がやってきた。

「伊東様、本日はスニーカーでよろしかったでしょうか?」


「はい」


雅彦がかしこまるので、私もつられてしまった。


「お荷物お預かりします。では、どうぞこちらへ」


私はバックを手渡し、雅彦に付いて行った。

「これだよね」


「うん」


私が席に着くと、すぐに雅彦がスニーカーを持ってきた。

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