《MUMEI》

「おーいー、いい加減泣き止めっつーの」

酔って間延びした店長の声が扉越しにでもわかった。

「あっち戻ろうぜ?英田も近藤のこと待ってるって、な?」
「‥‥ッ、や、です」

たしなめる男の言葉に重なって聞こえてきたのは、嗚咽混じりの声だった。
驚いて扉を細く開けて中をのぞくと、そこにはこちらに背を向けて俯いている茶髪男と、それを慰めている店長の姿があった。

「なおひろ、は、俺のこと、なんて、何とも思、ってない、です、よ」

引きつる喉から押し出される理解不能な言葉に、扉を開けて入ろうとすると、こちらを向いていた店長に目だけで制される。何とも思ってないってどういうことだ?ていうか何で泣いてんだコイツ?様々な疑問が飛びかう。

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