《MUMEI》

「七生ったら彼女に夢中みたいだ。乙矢もそうなるのかな?」

二郎が不安そうに語りかける。


そんな訳無い。
俺は二郎に夢中だから。

「二郎もいつかは夢中になる人出来るよ。」

一生そんなのは来なくていい。
その確率を下げるために俺は二郎が好意を寄せた女に予防線を張っている。

「俺、まだ乙矢でいい。」

二郎が肩に頭を寄せてきた。

「……へぇ。」

俺もそれなりに二郎に依存されているようだ。
七生は彼女で頭いっぱいだし太郎兄も姉貴にばかり構い俺達そっちのけてるからこの環境は恵まれている。


俺には一応付き合うまではいかなかったが彼女より一歩手前の女友達がいた。

それは二郎に触り過ぎないようにするための俺の予防線だったが効き目が弱すぎてすぐに止めた。

恋愛ごっこより、二郎の頭を撫でる方が俺には必要だからだ。
二郎の匂いや、触り心地、温かさで俺は思春期に目覚め始めた。
きっと二郎を撫でたのと同じ手で今夜も興奮を諌めるのだろう。


「七生が彼女のことばかり話すんだ。」

自覚無い……二郎は七生のことばっかじゃないか。

「直ぐ別れるさ」

俺が笑いかければ二郎も笑い返してくれる。

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