《MUMEI》 塀を攀じ登り事前に開けてある窓から自然と合流するつもりだった。 「ご機嫌だね坊ちゃま。」 久々原実朝が待ち構えていた。 「今日は。」 林太郎は此の男が苦手であった。 「成る程、窓から侵入する勉強なのか。」 実朝が白々しく言い放つ。 「兼松殿に言わないで下さい。」 普段なら部屋で勉強中である。 「逢い引きなら許せないよ。お坊ちゃま。」 冗談めかして実朝は西洋煙草に火を点けた。 煙が立ち込める。 「林太郎様」 使用人が探している。 抜け出していたことに気付かれたようだ。 「林太郎様、旦那様がお呼びです。」 「悪い、林太郎は借りてたよ」 実朝に貸しを作ってしまった。服に付いた煙草の匂いが実朝といたという証明になる。 前へ |次へ |
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