《MUMEI》

「林太郎は暫く実朝と出掛けて貰う。」

兼松の部屋の前は一呼吸置いてから入ることが自然と習慣付いていた。
実朝は副業として美術商を営んでいる。

「解りました。」

林太郎は文句を言っても聞き入れないことを承知していたので従う振りをしている。此処の掟は兼松だからだ。
ほぼ一歩も家から出れない生活から一変、林太郎は港町まで出される。




只、明日も話をしに行くと約束してしまったことが心残りだった。

あの姚しい貌に憂いの色を見せてしまったのなら其れは罪になる。

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