《MUMEI》

◇◆◇

「おはよう、草薙」

 鉢合わせた咲弥が挨拶をすると、草薙は返事をする代わりに一礼した。

 そして彼は大内裏へと向かう。

 咲弥はそれを見送ると、引き返して文机の前に座り筆を取る。

「──ん、何書いてるんだ?」

「秘密。でも、後で読んでくれる?」

「あたしが‥か?」

 うん、と咲弥は頷く。

 黒蝶は暫し考えた後、ああ、と答えた。

「───────」

 再び、庭に静かな雨が降り出す。

 開いた、橙の花びら。

 空からこぼれ落ちる滴が、その色を鮮やかに染めてゆく。

◇◆◇

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