《MUMEI》

付き合い始めてからは昭一郎さんと呼んでいた。

子供が生まれてからはパパと読んでいる。

昭一郎は眞知子を眞知子と呼び続けてくれている。

……と同時に不安だった。

もしかしたら、家族と認められていないのではないかと。



彼を古くから知る人は落ち着いたというがそれはただ仕舞っているのだ。

眞知子は知っている。

昭一郎は煙草を吸わないのにライターを持っている。


子供が触れた時、昭一郎は“パパ”ではなくなっていた。

決して子供を火の元に触れさせないためだけではない目付きだった。




本当は昭一郎には黒が似合う。
あの昭一郎の幼なじみの葬儀以外で黒い服は着ているのを見たことがなくなった。


「ぱぱ……」

現実味の無い呼び声。

「どうした、」

昭一郎の寝起きで怠そうな瞼が眞知子に向く。

「……暖かくして寝ていて下さいね。」

眞知子は精一杯明るく振る舞う。
昭一郎はとろとろと瞼を落としていく。

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