《MUMEI》

必要無いのだが、雅彦は、『それをやるのが『シューズクラブ』なんだよ』と言って、私の履いているスニーカーを脱がせた。


そして、真新しいスニーカーを履かせて、白い紐を通していく。


「今、話しかけても大丈夫?」


「あんまり話せないけど、相づち位なら」


言っている途中で、雅彦は早速通す穴を一つ間違えた。


(あんまり深い話はできないな)


私は、聞き流されてもいいような話をすることにした。

「和馬さん、仕事大丈夫みたいで良かったわね」


チラッと和馬を見ると、いつものように複数の女の子達に囲まれていたから、少し安心した。


雅彦は黙って頷いた。


「孝太さんも戻ってきて良かったわね」


孝太は例の女将の接客をしていた。


雅彦は、また、黙って頷いた。


「お盆は二人がいなくて大変だったわね」


「そうなんだよ!」


紐を蝶結びに綺麗に結んだ雅彦は、顔を上げた。


「雅彦も、スニーカー以外を選んだりしたの?」


「まさかぁ、俺、他は全然駄目だもん」


雅彦は苦笑した。


(あれ、でも…)


「私の誕生日にくれたミュールは可愛かったわよ?」

「あぁ、あれはあ…」


「『あ』?」

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