《MUMEI》

「アップルパイ…食べる?」


「食べるけど、今、何か誤魔化したでしょう」


私は立ち上がった雅彦のシャツの裾を掴んだ。


「あ〜、俺、ちょっと」


「トイレは駄目よ」


私は先手を打った。


「どうかなさいましたか?お客様」


俊彦が嬉しそうに私達の元へやってきた。


(きっと他のお客様には、私がクレーム言ったみたいに見えるわよね)


私は『別に』と言って、雅彦のシャツの裾を離した。

雅彦が、俊彦に何かを耳打ちする。


俊彦は、大きく頷いた。


「お客様、雅彦から、説明がありますから、聞いてやって下さいね」


「…わかりました」


そして俊彦は、ミニスカートの女性客の元へと戻った。


雅彦は、私の隣に座った。

「あの、ね。俺は嫌だって言ったからね」


雅彦は、まず言い訳から入った。


「だから、何?」


私は少し強い口調で言った。


「あの靴選んだの、俺じゃなくて兄貴なんだ。
『俺からだって言ったら、絶対受け取らないから、頼む』って言われてさ…」


「そ…」


『そんなことない』とは言えなかった。


あの時点では、過去の誤解は解けていなかったし。


「ごめん、ね?」

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