《MUMEI》

ここまで泣くもんなのか?ハタチそこそこの男が、酒の勢いがあるといえどこんなに泣いているのを初めて見た。どうしていいかわからずに硬直したまま扉の隙間から様子をうかがっていると、中の店長も苦笑して俺を見ていた。

「‥‥もう、いいです」

俯いたままだった銀二がゆっくりと顔を上げた。吐き出された声は泣き疲れていた。

「どっちにしろ俺は東京行くんだし、もう会わなくなるかもしれないですから。俺がこんな暗くて重いの、なおひろは絶対嫌がります。だから、もういいです」

ぽつぽつと落ちた言葉は、表情こそわからないものの苦笑しているようだった。諦めきったような口調はいつものアイツからは考えられないほど理路整然としていて、頭の中で何度も辿った言葉であることを思い知る。

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