《MUMEI》

慌てて扉の裏側に回ってやりすごす。こちらに気付かずひとり薄暗い廊下を歩いていく細い後ろ姿が儚く見えて、でも何と言えばいいかわからず立ち尽くす。

「‥‥お前何してんの?」
「あ、や、」

続いて出てきた店長に哀れむような声をかけられる。

「見てんなら出てこいよ」
「すいません‥‥」

店長の声音に責めるような色は無かったが、格好悪すぎて謝る言葉しか出てこない。

「別に俺は何も言わないよ。どうしようがお前の自由だし、アイツにも何か言うつもりもねぇし」
「‥‥でも、」
「てめぇの感情くらいてめぇでオトシマエつけな?近藤にも同じことは言えるけどさ、お前らはお互いに気を遣いすぎんだよ」

間延びした暢気な声とどこぞの宴会のコールが重なる、薄明かりの廊下に店長の穏やかな顔が浮かびあがっていた。

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