《MUMEI》

雅彦は、大きな体を丸めて、叱られた犬のような目で私を見つめた。


「…いいわよ、もう」


「兄貴に、たたき返したり、…する?」


「しないわよ」


私の言葉に、雅彦は意外そうな顔をした。


「…もう履いちゃったから、返品できないし。
靴に、罪は無いでしょ?」

私は、かなり苦しい言い訳をした。


「蝶子ちゃん、もしかして…

兄貴と、仲直り、した?」

「ど、どうして?」


「何か、兄貴に対して前より柔らかくなったし。

服装とか、昔に近くなってる気がする」


(う…)


さすがは、幼なじみだ。


見てないようで、見てるし、…気付いてる。


「もしかして、もう付き合ってるとか?」


「それは無いから!」


(しまった)


雅彦はちゃんと小声で訊いてきたのに、私はつい大声になってしまった。


慌てて口を押さえたが、…もう遅い。


周囲が私に注目しているのがわかった。


(恥ずかしいよ〜)


私が真っ赤になってうつ向いていると


「お気に召して頂いて、光栄です。

…では、履き替えましょうか?」


雅彦が、私にひざまずいて、ニコリと笑った。


「…『お願い』って言って、合わせて」

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