《MUMEI》

数分後、俺は車でさっきの峠を走っていた。
夜になるとこの峠は車の走り屋が多く集まる。
俺は走りに来た訳ではない。エリカの家はこの峠を超えた所にある。

エリカと出逢ったのもこの峠だった。

峠を下ると町明りが見えて来た。海辺の広場に入り携帯を鳴らす。
「着いたよ」
その一言で電話を切りポケットにしまうと、直ぐに助手席のドアが開く。

エリカは「お待たせっ」と言い乗り込んでくるが、俺はすかさず「待ってねぇよ」と言い返す。

ここでは、いつもこのやり取りから始まる。

「何が食べたい?」そう聞きながら車を走らせ峠を越えて行く。

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