《MUMEI》

◇◆◇

 鴨川の遥か上流。

 涼風が心地良い。

 流水の歌うような瀬音が囁く。

「素敵──‥」

 初めて見る貴船の風情に、咲弥はうっとりと目を細める。

「なっ、なかなかいい所だろ?」

 うん、と頷き、咲弥は屈み込むと流れる水にそうっと手を浸す。

 ‥冷たい。

 思っていたよりも流れが早く、少し驚いた。

「咲弥、落ちないようにな」

 黒蝶が傍らで咲弥を支えてやりながら言うと、先程と同じように頷いて、咲弥は微笑を浮かべた。

◇◆◇

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