《MUMEI》 10月1日。【2008年10月1日】 だめだ…どこにもない。 今日も出勤前にノート探し… “うちの工場は給料が月末払いだから、いつもなら1日は上機嫌なんだけどなぁ…。” 僕は趣味もなく、友人もいないため、毎月1日には自分へのご褒美として“立呑屋”へ行く。 それが僕の唯一の楽しみだった…。 本当に…寂しい人生だ。 今月はそんな気分じゃねぇわ…。 生活費だけ通帳から、おろそう…。 そう思ってATMから3万円引き出した…。 “は〜。” 思わずため息が出た…。 後ろにおばさんが並んでいたため、早めに済まさなければと焦った。 なんて気の小さい男だろう…。 家に帰りまた、ため息を一つついた僕は通帳をいつもの引き出しにしまった。 それからしばらくして… 妙に通帳が気になった僕は何となく通帳を見た…。 ………。 ………………。 いち…… じゅう…… ひゃく…… せん…… まん…… じゅうまん…… ひゃくまん…… いっせんまん…… いちおく……… ………。 一億!!!? 残金100,234,751円 何度見ても僕の通帳には、一億の桁の数字が並んでいた。 印刷ミス…? 機械トラブル…? 僕が悩んでいると… “まっ!待てよ…。” 思い出せ自分…。 落ち着け自分…。 たしか… そう僕は二週間前に書いた【10月1日】の日記の内容を思い出した。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【2008年10月1日】 僕は一億円拾った。 何に使うか考えものだ。 好きなフィギアを大人買いするか、人生初のキャバクラへ行くか迷ったが、とりあえず全額貯金して通帳の残金を見てほくそ笑んだ。毎日油塗れになって、せいぜい月にニ十万程度。 本当に馬鹿馬鹿しい限りだ。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 こんな内容だったような… いや、たしかに、こう書いた。 まさか!? だけど… 僕は一億円拾っていない。 ましてや通帳に入れてもいない。 僕は三万円おろしただけだ。 どうなっているんだ!? 不安になりながら、洗面所に向かい、バシャバシャと顔を洗った。 びしょ濡れのまま顔をあげると鏡の中の自分と目が合った。 そこには不安そうな自分ではなく、一億円を手にした男が不気味にほくそ笑んでいた。 前へ |次へ |
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