《MUMEI》

◇◆◇

「───────」

 水に手を浸しながら、咲弥は思う。

(貴船って本当に楽しい所───)

 傍らでは、黒蝶が片手で石を玩でいる。

「‥‥‥‥‥黒蝶」

「ん?」

 黒蝶が振り向く。

 草薙は呆れ顔で彼女を見つめていた。

「少しは身を慎んだらどうだ」

 すると黒蝶はきょとんとする。

「何でだ?」

「‥‥‥姫君の側に遣わされた者としての自覚は無いのか」

「自覚?」

 その間の抜けた口調に、草薙は溜め息をついた。

「‥‥‥‥とんだ困り者だな」

「‥んだと‥っ!?」

 くわっと牙を剥く獣のように、黒蝶が憤りを顕にする。

 草薙は、つん、と顔を背けた。

「───────」

 咲弥は微笑ましげに、仲睦まじい二人を見つめていた。

◇◆◇

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