《MUMEI》 山茶花 (さざんか)◇◆◇ 秋色の衣を纏い、咲弥は花の如く佇んでいた。 褐色に染まりつつある庭。 椛や金木犀が彩りを添える。 山茶花も白い花びらを広げ、風に揺れている。 刺すような冷たさも、慣れてしまえば気にはならなかった。 それでもやはり、散り、枯れゆく花々を見るのは寂しい気持ちがしていた。 「‥‥‥‥‥‥‥」 「さーくや、何落ち込んでんだー?」 「あ、黒蝶──」 「確かに、ちと寂しいもんがあるよな、秋ってさ」 「うん───」 「でもさ、それだからいいんじゃないのか?」 「ぇ‥?」 「春があって、夏があって、秋があって、冬がある。で‥また、春が来て‥ってさ。もし花が綺麗に咲いてる季節しかなかったら、あんまり喜んだり出来ないんじゃねぇかな」 「───────」 その通りだ、と咲弥は思う。 ほんの少し、寂しい気持ちが和らいだような気がした。 ◇◆◇ 前へ |次へ |
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