《MUMEI》 その時。 俊彦は、私を探すのを諦めて、実家に戻ったし 和馬も俊彦を追いかけていった。 だから、俊彦も和馬も、私と孝太の事は知らなかったのだ。 「…で?」 「孝太さんと私は、『ただのお客とバイト』の関係でした」 麗子さんの冷たい反応に、私の声は少し震えた。 (だって、本当にそれだけだもの) 写真の中の、昔の孝太は ボサボサ頭で、分厚いレンズの丸眼鏡をかけていた。 ほとんど毎日同じようなくたびれたシワシワの上着に、ジャージのズボンを履いていていたし。 時々、不精ヒゲが生えている事もあった。 ただ、スニーカーの紐はきちんと結んであり、…今と歩き方は変わっていなかった。 『閉店間際に来る、変わった客』 それが私の昔の孝太の印象だった。 私はホールではなく厨房のバイトだったが、ホールの女の子達が孝太を嫌がるので、孝太の接客だけは私がしていて 私は、いつの間にか孝太の担当になっていた。 「それで何でブレスレットなんかもらうのよ!」 麗子さんは強い口調になった。 「…時々、まかないをあげたりしたから、そのお礼だと、思い… ます けど」 「どうして?!」 前へ |次へ |
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