《MUMEI》

「あ、あの、常連さんだったし、お腹空いてるみたいだったから…

本当に、それだけなんです!」


あの頃。


私は、まかない以外の料理はまだ作らせてもらっていなくて。


『あの客なら、サービスで出してやってもいいよ。
…お金無さそうだし』


店長が、孝太に同情して、許可してくれたのだ。


それに、私も無邪気に『お客に料理が出せる』事を楽しんでいた。


孝太はある意味


私にとって


『最初のお客様』だったから。


無口で無愛想で、一言も言葉を交した事は無かったけれど


私にとって、大切な思い出だから、忘れてなかったし

ブレスレットも大切にしていた。


「変身した孝太には、東京でどうして会わなかったの?
彼、『やっとかっこよくなったのに、会えなかった』って落ち込んで…
だから、私、思い切って告白したのよ」


「それは…もしかしたら、私が就職活動するから、バイト辞めた頃だったかも…」


「それで今、感動の再会ってわけ?!

あんたには大好きな俊彦がいるのに!」


麗子さんは吐き捨てるように言った。


私が何も言えないでいると、麗子さんはますます怒りをあらわにした。


「大体あんたは」

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