《MUMEI》

「昔から、可愛くて、皆にチヤホヤされて、守られて!
いいわよね!
いい男二人に言い寄られて、さぞかし気分いいでしょうね!」


「そんな…」


麗子さんの言葉が胸に突き刺さり、私は苦しくなった。


「午後の競技が始まります。解説、サボらないで早く来なさい。

繰り返し、…」


瞳さんのアナウンスに、麗子さんは開きかけた口を真一文字に結んだ。


美しい髪はすっかり乱れ、興奮して息も上がっていた。


麗子さんはため息をついた。


「…しばらく話しかけないで」


それだけ言うと、麗子さんは走ってテントに向かっていった。


私は、その場にズルズルと座り込んだ。


麗子さんを傷付けた事


麗子さんに傷付けられた事

孝太の切ない想いに応えられない事


好きなのに俊彦に素直になれない事


想いは次から次へと溢れた。


…止まらない、涙と共に。

私はブレスレットを外して、ポケットにしまった。


『アクセサリーを着けた女性』が最終種目に必要らしいが、私はもうそれどころでは無かった。


かと言って、今帰るわけにもいかず


気が付くと、私はトボトボと、商店街の裏道をさまよっていた。

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