《MUMEI》 10月2日。気が付くと、もう朝だった。 今日は… 【2008年10月2日】 昨日の出来事が夢ではないかと思い、飛び起きて通帳を探す。 しっかりと握りしめながら眠っていたのか… かなりシワくちゃになった通帳がベッドの下に落ちていた。 “はははははっ” ちゃんと一億円入っていた。 夢じゃない。 僕は億万長者だ! あんな古臭い工場とはもう、おさらばだ。 朝一で辞表を書き、事務所に持っていった。 だが、朝早すぎたのだろう事務所には誰もいない…。 しばらくすると事務員の女が出勤してきた。 その女を見て、僕は思い出した…。 【10月2日】の日記の内容を…。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【2008年10月2日】名前も知らない女だが、気になる奴がいる。 先月、入社したばかりの事務員だ。おとなしい感じの外見とは異なり、かなりいい体をしている。 歳は25は越えていそうだが男経験は無さそうな地味な女だ。 そこがまた、そそられる。僕は今日、仕事帰りに待ち伏せをし、人気(ひとけ)のない路地裏へと女を引きづった。 かなり抵抗したので何発か殴ってしまった。 叫ぶ女の口をふさぎ、服を引きちぎってみると思った通りなかなかいい体だ。 寒気がするほど、たまらなく興奮して無我夢中で女にまたがり、ヤッた。 やはり女は処女だった。 気絶している女を置いて僕は何事もなかったように家へ帰った。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 日記の内容を思い出していると女がとても小さな声で話し掛けてきた。 『…何かご用ですか?』 僕はとっさに 『…別に。』 と言い、辞表を隠して事務所をあとにした。 昨日の“一億円”のように“この女とヤレるかもしれない”そう思ったからだ。 その日の仕事帰り、僕はもちろん路地裏の前で女がやってくるのを待っていた。 …一時間 …二時間 どんなに待っても女は来ない…。 “仕事はとっくに終わってるはずなのにな…。” 僕はボヤいた。 “なんだ…ヤレねぇのかよ。” 家に帰り落ち込んだ。 よく考えれば僕は女の家を知らない。 どの道を通って帰るのかさえ知らなかった…。 適当な場所で待ち伏せても来るわけない。 もっと言えばこのヘタレの僕が女を襲えるわけがない。 あの日記は“書いたことが現実になる”ノートだったのではないかと少しでも期待した僕が馬鹿だった。 映画の見過ぎだな…。 なんだか腑に落ちなかったが一億円の通帳を眺めながら酒を飲んだ。 この通帳は実にいいツマミになる。 眺めているだけで、とてもイイ具合に酔えるのだ。 今日ヤリそこねたことなんて、どうでもよくなった…。 明日は仕事サボろう…。 テレビをつけたまま眠ってしまった僕は朝のニュースで目を覚ました。 速報というテロップと共に見たことのある路地裏が映し出されていた。 “あれ?ここ…僕が女を待ち伏せてた路地じゃん。” 僕はテレビに夢中になってかじりついた。 リポーター 『え〜速報です。 昨夜未明会社員の女性がこの現場で何者かに暴行を受けました。 犯人は被害者の女性をこの路地裏に引きづりこみ、暴行をはたらいたとのことです。 目撃者はおらず、不審者の情報もありません。 現在、被害者の女性は病院で治療を受けていますが、精神的ショックが大きいのが心配されます。』 …………。 慌ててテレビを切った。 被害者ってあの女? 犯人って……僕? 前へ |次へ |
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