《MUMEI》 枇杷 (びわ)◇◆◇ 木枯らしが吹く。 その音が、乾いた葉の囁きに混じり咲弥の耳に入ってきた。 「───────」 庭へ赴いても、もう花は殆ど見る事が出来ない。 そんな中、枝に咲く白いふわふわとした花がある。 その花をつけているのは、枇杷の木。 皐月に実を結ぶその木は、咲弥の気に入りだった。 「おお、意外に咲いてるもんだなぁ」 呑気に間延びした口調で、黒蝶が言った。 「にしても‥‥」 寒い、と言いかけて、黒蝶は僅かに身震いした。 霜が降りている上、空には薄暗い雲がかかり始めている。 (寒いなぁ‥) 師走になれば尚更だろう、と黒蝶は思った。 ◇◆◇ 前へ |次へ |
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