《MUMEI》 公園裏通りにいても、商店街の賑やかな声は聞こえていたが、私は遥か遠くでの出来事のように感じていた。 裏通りを歩いているのは私だけだった。 おそらく、皆運動会を見に行っているのだろう。 家はあるのに、誰にも会わない不思議な現実に、私はまるで知らない町に迷い込んでしまったような錯覚に陥った。 「…あ」 その中で、見覚えのある物を発見し、私は思わず声を上げた。 それは、小さな公園だった。 (まだあったんだ、ここ…) 私は、フラフラと、公園にある唯一のベンチに腰を下ろした。 ベンチの横には、大きな桜の樹があり、公園の半分以上を木の葉の影がおおっていて、少し肌寒かった。 (懐かしいな…) 遊具はブランコと、高さの異なる鉄棒だけのこの小さな公園で、私は商店街の皆とよく遊んでいた。 ここは、楽しい思い出ばかり詰まっていた。 私はふと、鉄棒を見た。 私は、鉄棒が苦手で、逆上がりがなかなかできなかった。 そんな私を皆が励ましてくれた。 初めて逆上がりが出来た時。 『やったわね、蝶子!』 私を褒めてくれたのは、…麗子さんだった。 あの日と今の違いに、視界がぼやけた 前へ |次へ |
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