《MUMEI》

俊彦は一番近くにいた自分の常連客を


雅彦は、結子さんを


衛さんはやこちゃんを選んだようだ。


「おっと、漫才コンビ、この後の事を考えた女の子達に、『ごめんなさい』をされてます」


(この後?)


最終種目なのに、まだ何かあるのだろうか。


しかし、私はそれより気になる事があった。


倫子さんが、まだ孝太の名前を言わないからだ。


麗子さんも、誰にも選ばれた様子も無いし。


私は耳をすませた。


「孝太選手は…、やっと選びました」


ドキッ


「今、麗子と一緒にゴールしました!何やらいい雰囲気です」


(あの二人…が?)


『いい雰囲気』


私には、何が何だかわからなかった。


(…ちょっとだけ)


私は、こっそり確認するために、ベンチから立ち上がり、商店街へと歩き始めた。


…立たなければ良かった。

歩かなければ良かった。


そうすれば、あんな場面を見なくて済んだ。


自分が自分勝手で最低だと、気付かずに済んだ。


『それ』を見た瞬間


私の頭からは


孝太の事も


麗子さんの事も消え去って

俊彦の事でいっぱいになってしまったから。

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