《MUMEI》
乙矢12歳
「何故、ピアノ辞めるの?」

母に抵抗したのは始めてのことだ。
子供の頃から父や母に誉めて貰いたくていい子だった。
けれど、姉貴の自由奔放さには敵わなかった。

……二郎もそうだ。

体が弱い太郎兄や末の麻美の間に生まれ、手の掛からない子供であることを強いられた。

俺達はそういうのを理解していて、二郎は与えられない分、優しくしてれた。

本当は自分が欲しいものを誰かに与えることで飢えた気持ちを満たしている。

二郎が飢えているのを満たしてやりたい。

それは、色々な形でも可能ではないか?

俺が二郎を愛してるだなんて当たり前なこと以外で。

ピアノを特に重点を置いて身につけたのは二郎がもっと聞きたいと言ってくれたからだ。
七生に憧れ追いかけ回す二郎を足止めできる少ない手段であった。

そのピアノも音楽学校を目指すように薦められるまでに上達した。

けど、二郎がいないなら無意味だ。

二郎からは離れられない。一緒に居るために始めたのだ、元から執着はしていなかったのでいつでも辞める覚悟だった。


二郎を天秤にかければどんなときも圧勝だ。

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