《MUMEI》

私の手を掴んだ孝太は、私の背中を桜の樹の幹に押し付け、私の顎をつかんで顔を上げさせた。


私は息が上がっていて、言葉が出なかった。


息苦しさからか、胸の痛みからか、罪悪感からか、わからないが


ただ、涙だけは止まることを知らなかった。


「…あんなのは、ただの…」


言いかけて、孝太は、ポケットから紙を取り出した。

「見えるか?」


「?」


目の前に広げられた紙を見るために、私はごしごしと目をこすった。


「見えるか?」


孝太がもう一度訊いてきた。


私は頷いた。


そこには、『ブレスレット』と書かれていた。


「運動会が始まる前に俺が言った言葉を覚えているか?」


私は、今日起こった事が多すぎて、思い出すまで時間がかかった。


待ちきれず、孝太は言った。


「俺に繋がる運命なんだよ」


「ちっ…それっに…さっき…」


次第に近付いてくる孝太を押し退けながら、私は必死に声を出したが、うまく喋れなかった。


「麗子の事なら、誤解だ。『蝶子の居場所を教える』って言うからあいつを選んだ。

ただ、…それだけだ」


孝太が私の耳元で甘く囁く。


「…離して、私は、と…んぐ」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫