《MUMEI》

今まで誰にも触れられた事の無い部分に…私の中に孝太の指が入ろうとした。


(動いてよ!)


私は目を瞑って念じたが、相変わらず体は動かない。

その時。


『バキッ』と言う音と共に、孝太の重みと指の感触が消えた。


「…ハッ」


安心して、ため息が漏れ、私はその場にズルズルと座り込んだ。


しかし


乱れた私を見下ろすその人物に、私は目を疑い


再び、恐怖した。


『今度こそ、嫌われる』と

「…お前、俺が好きなんじゃないのか?」


「好きだから、犯罪者になるの止めてあげたんでしょう?

感謝してほしいわね。

…ここに来たのが私だった事に。

俊彦なら、殺されてるわよ」


そして、孝太を殴り飛ばした麗子さんは、座りこんでいる私に近付いた。


『違うんです!』


言いたいのに、言葉にならない。


私はただ青ざめて、口をパクパクと動かしていた。


「…どうせあんたが誘ったんでしょう」


麗子さんはそう言って、しゃがんで私の顔を覗きこんだ。


私は泣きそうになった。


しかし、涙は出なかった。

次の瞬間。


麗子さんがいつものように明るく笑ってくれたから。

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