《MUMEI》
説明
店内に入ると、麗子さんは私を入口近くのソファーに、座らせ、孝太にカット台に座るよう指示した。


「…おい」


「何?強姦未遂君」


麗子さんは、睨みつける孝太の顔を真っ直ぐ見つめた。


「そこからなら鏡越しに私達が見えるでしょう?
それとも、シャンプー台に移動する?」


「ここでいい」


孝太は麗子さんが指差した、ソファーから一番遠いシャンプー台をチラッと見て、ため息をついた。


「さてと。まずは、そこの馬鹿が言ってない事から話しましょうか」


「俺には名前がある」


「呼ぶ価値は今は無いわ」

二人の間に火花が飛んだ。

「…俊彦の事ちゃんと話してないんでしょう?」


麗子さんの言葉に孝太は黙って下を向いた。


「あれは、単なる余興よ」

まだ言葉が出てこない私は、首を傾げた。


「笛は、聞いた?」


私は頷いた。


「笛一回で、男性から協力してくれた女性の手の甲へ、『感謝のキス』。

笛二回で、協力した女性から、男性の『頬』へ『祝福のキス』。

この二つがされると、ボーナスとして、大量得点を得られるの」


「で…でも」


私はようやくかすれた声を出して、反論した。

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