《MUMEI》
10月3日。
まさか……




僕はヤッてない。




待ち伏せはしたけど女は来なかったんだ。




…僕は出来なかったんだ。



とにかく家にいても不安なので仕事に行くことにした。




工場の前まで来ると異様な光景が見えてきた。




パトカーが二台と事務所に従業員が集められていた。



遅刻がバレないように一番後ろの席に着いた。




工場長の話はこうだ。




“うちの従業員が事件に巻き込まれ大変遺憾に思う。”




“一日も早い被害者の回復を祈る。”




“従業員は警察の捜査に協力するため気付いたことがあれば報告するように。”




…やはり被害者はあの女だ。



昨日…あの路地裏で待ち伏せされ何者かにヤラレたらしい。




これは偶然なのか…




それとも……




僕はこの事件があの“日記”と関係しているのかを調べる為、急いで作業リーダーの家へ向かった。




作業リーダーとは、共に工場で仕事をしている僕の直属の上司だ。




前に一度、家に連れてきてもらったが、よく覚えてなかった為、かなり道に迷った。




僕が動揺しながらもリーダーの家に向かったのは…




【10月3日】の日記に…僕は書いてしまったのだ。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【2008年10月3日】前からいつか、ぶん殴ってやろうと思ってたリーダー。だが、殴るだけでは物足りない…。いつも僕に偉そうに命令ばかりしやがって。上司だからってそんなに偉いのかよ。僕はいい仕返しの方法が思いついた。
“あいつの家に放火してやろう。”あいつが仕事から帰ってきたら跡形もなく家がなくなってる。
最高だ。新築でまだローンが残ってるらしいから、かなり落ち込むだろうな…。僕は一度だけ行ったことのあるあいつの家に灯油を撒きライターを投げ捨てた。炎はあっという間に燃え広がり爽快だった。
僕はあいつの家が燃え崩れるのがよく見えるビルの屋上で高笑いをした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




そう…





こんな内容を書いてしまった…。





そんなことを思い出しながら、走っていると、ようやく見たことのある通りに出た。




“たしかこの辺だったよな…。”




ウー。ウー。ウー。




ピーポー。ピーポー。




けたたましい音で僕の目の前を消防車と救急車が走り抜けていった。




二台が走っていった方向に目をやると黒煙が見えた。




僕は脂汗をかきながら、必死に黒煙の方向へ走った。



たくさんの野次馬たちを押し退けやっとの思いで見えた火元の家は間違いなく“あいつ”の家だった…。




“やっぱり…”




途方に暮れながらただ崩れ落ちる家を眺めてた…。




野次馬の声が聞こえる…




『ご主人は仕事で留守だったみたいよ……でも奥さんはまだ見つかってないらしいわ…。』




『…えっ?あそこの奥さんまだ中に!?たしか来月出産予定じゃ……。』




僕は耳を疑った。




3時間後…




ようやく消火された家からは…妊婦の死体が見つかった。




僕がそれを知ったのは翌日の朝刊だった…。




僕はずっと…意識もなく近くのビルの屋上から眺めていたんだ…。




“あいつ”の家が焼け崩れるところを…。




そして…




やつの困った顔が目に浮かび笑い転げていた…。

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